- 2006年企画展予定 -
10:30AM-7:00PM
(火曜休廊)

上原三千代展

育児の作法

2007年6月16日[土]―24日[日]
AM10:30―PM7:00(火曜休廊)

この度,4年ぶり4度目となる彫刻家・上原三千代の個展を新作にて開催することとなりました.2003年の個展開催以来、ご長女の初産,富山県入善町の発電所美術館での個展「畳のしめりけ」開催以降,数箇所の美術館の企画展の出品、瀬戸内に浮かぶ直島での直島福武美術財団による「NAOSHIMA STADARD2」への参加等を経て,やっと新作による作品展を当画廊にてご高覧頂けることとなりました.

この4年間の沈黙は必然性をもって,きっと皆様に納得いただけることと確信致しております。

画廊主 梅津宏規

「育児の作法」−日常生活のユーモアを追求

上原三千代は、ひのきを素材に用い、古くから仏像制作に使われてきた「寄せ木」の技法や、木彫に漆を塗り重ねる木心乾漆もくしんかんしつを応用した技法で作品を作っている。「写実」にこだわった上原の作品は、私たちが日常生活で使う「リアル」という言葉の方がぴったりする、不思議な現実感を備えている。

まるで生きているような、そのなまめかしいリアリティーは、無論技術的な面だけから生み出されたものではない。「美術は特別なものではなく、生活の一部。暮らしている土地から見た視点で今を表現したい」「その人が歩んできた人生の内面のすべてを表現したい」と考え、実家のある下仁田のアトリエで制作を続ける上原のモデルになるのは、身近な家族や動物たちである。《下仁田−おじい》(2003年)では、ステテコ姿の父親をとりあげることで、だれもがもつ飾らないありのままの日常をリアルな現実として提起した。それは、ステテコごと畳の上に脱ぎっぱなしたズボンを表した《おじいの抜け殻》、食卓に置き忘れた入れ歯を表現した《おじいの宝》と共に、私たちに強いインパクトを与えた。

次回の展覧会では、2003年に生まれた娘から影響をうけたことを中心に、変わりゆく毎日も彫りこみたいと思っている」と昨年語っていた上原は、今回「育児の作法」と題された展覧会を結実させた。出品作品のどれにも、自らの育児体験を昇華させた、観る者をほころばせる普遍的なユーモアが感じられる。

《父子像》は、二宮金次郎の銅像でも乗りそうな古めかしい台座の上に、赤ん坊を抱いた父親が立っている。この若い父は今風に、おんぶ紐ではなく抱っこ紐を肩にかけ、視線を遠くになげかけている。その目はどこか物憂げで厳しく、私たちは幸せいっぱいの家族の肖像を観た、という気持ちにはなれない。古風な台座に現代を生きる人間像を乗せるというアンバランスが、私たちに今を生きる不安や厳しさを思い起こさせるのかもしれない。上原の彫刻に特徴的な、この抑制された表情は、喜怒哀楽を調和させ、人生を達観したような表情をした仏像を数多く見てきた体験に由来するのであろうか。そして赤ん坊は、じっと父の顔を覗き込んでいる。大人には計り知れない、恐ろしいほどの吸収力で何かを感じ取り、成長してゆくのであろう。つぶらな瞳が印象的である。

《臨月のブラ》、《断乳のブラ》、《お疲れブラ》、経験者でなくとも思わず泣き笑いしたくなる意地悪で楽しい作品である。かつて制作された《おじいのトルソ》、《下仁田保育園》(ともに2003年)は、顔もなく中身も空洞ながら、衣のシワやおなかのふくらみが、モデルの年齢や体臭までも表現していた。今回のシリーズは、聞くまでもなくご本人のトルソであろう。

足を組んだ二股大根をソファーに座らせ、《郷愁のマリリン》(1998年)と題して出品するなど、人生を彫り探った厳しい肖像彫刻と、遊び心と彫る喜びにあふれたこれらの作品を織り交ぜることで、観る者の心のバランスを心地よいものにさせるとともに、上原ならではの空間世界を作り出している。

そして《乳母と私》は、日本画や木彫の世界で何度となく表現されつづけられた、伝統ある「牛」をモチーフとしている。「動物から乳をもらう人間の子ども」というテーマは、古代ローマ彫刻にさかのぼる、インターナショナルなものでもある。そんな人類の壮大な歴史をいとも軽々と現実の日常生活につなげてしまう、上原の「今」へのこだわりと、腕の確かさを感じさせる作品となった。

群馬県立近代美術館 学芸員 神尾玲子

上原三千代  UEHARA Michiyo
1966群馬県に生まれる
1989東京造形大学彫刻科卒業
1990東京造形大学彫刻科研究生修了
1994東京芸術大学大学院保存修復技術専攻修了
[個展]
1995「上原三千代展」ガレリアグラフィカ bis (東京)
1998「大根の気持ち-上原三千代展-」靖雅堂 夏目美術店 (東京)
保科美術館 (群馬県伊香保)
1999「上原三千代展-PORTRAITS」ガレリアグラフィカ (東京)
GALLERY MOCA (名古屋)
2000「上原三千代展-diary-」中京大学アートギャラリー C・スクエア (名古屋)
ガレリアグラフィカ (東京)
GALLERY MOCA (名古屋)
「上原三千代展-SELF-」画廊翠巒 (前橋)
2001「上原三千代展-会いにゆく」ギャラリーイヴ (東京)
「リアルなココロ-ぬかづけなココロ」高崎市美術館 (高崎)
2002「REVUE展-上原三千代-」画廊翠巒 (前橋)
2003「上原三千代展―下仁田―」ガレリアグラフィカ(銀座)・画廊翠巒(前橋)
2005「上原三千代展―畳のしめりけ」下山芸術の森・発電所美術館(富山入善町)
2007「上原三千代展―育児の作法 The Etiquette of Child Rearing」
画廊翠巒(前橋)
[グループ展]
1995「群馬青年ビエンナーレ」 群馬県立近代美術館 (高崎市)
1996「上原三千代・篠崎悠美子二人展」 ガレリアグラフィカ bis (東京)
「山月展」 画廊山月 (前橋)
1997「'97 ANNUAL SHOW」 ガレリアグラフィカ bis (東京)
1999 「アートランドオン150×150展」 GALLERY EARTH VISION (横浜)
「翠巒会展」 画廊翠巒 (前橋)
「第3回 世界陶彫シンポジウム」 セラテクノ土岐 (土岐市)
「NICAF TOKYO '99」 東京国際フォーラム (東京)
2000「現代の陶彫」 ギャラリーせいほう (東京)
「アートランドオン150×150展」 GALLERY EARTH VISION (横浜市)
「AN AUTUMN EXHIBITION OF ART WEB SITE」 ギャラリー青羅 (東京)
2001「NICAF TOKYO '01」 東京国際フォーラム (東京)
2002「東大寺のすべて」 奈良国立博物館 (奈良)
2003MOTアニュアル2003 東京都現代美術館 (東京)
2004「木で作る美術」群馬県立館林美術館(館林)
「REVUEU・展―高橋常雄・上原三千代―」画廊翠巒(前橋)
2005REALITY CHECK 東京造形大学付属横山記念マンズー美術館(東京)
2006Sweet Memories-スイートメモリーズ 北海道立近代美術館
Naoshima Standard 2 香川県直島・財団法人直島福武美術財館団(〜‘07)
[パブリックコレクション]
 高崎市美術館/中京大学/和歌山県立医科大学/
東大寺/日光山輪王寺/直島福武美術館財団